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【小説】もうひとりの私

1 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:39:45 ID:gv8RK4Kr0
お越し頂きありがとうございます。
この小説は、「ハロープロジェクトキッズは16人いた」という設定の元に、
その16人目のメンバーの数奇な運命を書き綴っていくものです。
若輩ゆえ遅筆、また稚拙でございますが、宜しくお願いします。

2 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:42:07 ID:gv8RK4Kr0
「ハロープロジェクトキッズオーディション 最終審査会場」
賑々しく書かれたプレートの前に、一人の少女が立っていた。
 直前に降り出した雨が往来から人通りを減らし、どんよりと薄暗い街角の中で、少女の白い肌と
橙色のブラウスは、まるでそこだけがカラー写真で抜き取られたかのような鮮やかさだった。
 年の頃10歳前後であろうその少女は、タレントオーディションの決勝進出者に相応しい容姿と
スタイルを兼ね備えていた。
 整った鼻筋と薄く紅を差した唇、プレートを見上げ軽く笑みを湛えた少女の口から、輝くような
白い歯がこぼれる。
黒く長い髪は、雨の飛沫に濡れビーズを散りばめたように輝き、吸い込まれそうな漆黒の
つぶらな瞳とあいまって、ずいぶん大人びたエキゾチックな雰囲気を醸し出していた。
 今まで憧れ続けてきた夢の世界の入り口にようやく辿り着いたかのように瞳を輝かせる少女と
対照的に、どこか神妙な面持ちの少女の母親が、少女の肩を軽く叩いて声を掛けた。
「これで最後よ。いってらっしゃい」
少女は母親の瞳を見つめ、かすかに頷くと、会場の中へ歩みを進めた。

3 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:43:01 ID:gv8RK4Kr0
オーディション会場の前室とでも言うべきその部屋は、華やかな芸能界のイメージとはかけ離れた
無機質なグレーで統一された空間だった。スチールラックが点在する部屋の中央に20脚程の
パイプ椅子が並べられ、既に10人程が審査の開始を待っていた。
 ある者は2〜3人で談笑し、またある者は1人で不安や緊張と闘っていた。
 母親と別れた少女は談笑しているグループの方へ幾度となく視線を走らせたが、その中の1人と
目が合うと途端に顔を伏せ、手近にあった椅子に腰掛けた。
 会場に来るまでは期待に大きく膨らんだ少女の胸は、今は不安で押しつぶされそうになっている。
普段とは全く違う緊張状態に追い込まれた少女は、気持ちの昂ぶりをどう鎮めて良いのか分からず、
軽く深呼吸した後2〜3度頬を叩き、大きく口を広げて顔の筋肉をほぐすような仕草を見せた。
 そこへ後ろの方で談笑していたグループから甲高い笑い声が起きる。少女は自分が笑われたかのような
錯覚に陥り、膝の上に置いた鞄の柄を固く握り、再び俯いた。ぴったりと閉じられた膝がかすかに震えた。
 その時、少女は柔らかい空気を伴ったある気配を感じた。
「ここ、座ってもいいかな?」
 おもむろに少女は声のする方へ視線を向けた。そこには自分よりも少し幼く見える女の子が、
はにかんだような笑みを浮かべて佇んでいた。


4 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:53:51 ID:gv8RK4Kr0
「あたし、清水佐紀。よろしくね」
佐紀、と名乗ったその女の子は、小さな鞄を胸に抱きかかえるようにして立っていた。
思いがけない出来事に少女が戸惑っていると、佐紀は口元に笑みを絶やさぬまま、眉尻が少し下がり、
ちょっと困ったような表情になった。
(返事を待ってるんだ)
 少女は慌てて自己紹介をする。
「あ……、あたしは、松本、安奈……」
「そう、よろしくね、安奈ちゃん」
 佐紀はそう言って安奈に右手を差し出した。
 安奈は反射的に手を差し出すと同時に立ち上がった。すると、安奈の膝の上に乗せていた鞄がずり落ち、
鞄の中身が辺りに飛び散った。
「あ……!」
 周りの注目を浴びる中、一気に紅潮した頬を押さえながら鞄の中身を拾おうとする安奈。
すると安奈よりも先に佐紀が辺りの物を拾い出した。鉛筆、鏡、MDプレイヤー……
「はい、安奈ちゃん」
 安奈があたふたしている間に手際よく物を拾ってしまった佐紀は、それらの物を笑顔で差し出した。
相手を包み込むような、優しい笑顔だった。

5 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:54:23 ID:gv8RK4Kr0
「あ、ありがとう……」
 恐る恐る品物を受け取ろうとした安奈の手が、一瞬佐紀の手に触れた。
 柔らかくて、温かい手だった。
(温かい手の人は、心が冷たいって言うけれど……) 安奈は思った。
(この人は、佐紀ちゃんはきっと心も温かいのだろう。だって、あたしに声を掛けてくれたんだから)
 佐紀の真っ直ぐな瞳に見つめられて、安奈は思わす目を伏せてしまったが、少しだけ救われたような
気持ちになった。大勢の人がいる中で自分に声を掛けてくれたことが素直に嬉しかった。
椅子に座っても、佐紀の方から話しかけてくれた。
「安奈ちゃんは、歌の課題曲何を歌うの?」
「あ、あたしは、後藤真希さんの『愛のばかやろう』……」
「えぇ〜、あたしも後藤さんの曲なんだよ!」
 二人とも後藤真希のファンだったこともあり、それから二人の会話は弾んだ。色々なことを話す中で、
佐紀は安奈より1つ年上であることも分かった。
背も低く顔も幼く見えるが、明るくて気配りがちゃんとできる佐紀が、安奈には眩しかった。
(こんなお姉ちゃんがいたらよかったのに) 安奈は心の底からそう思った。


6 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:58:52 ID:gv8RK4Kr0
 安奈は一人っ子だった。
「安奈」という名前は、父がつけてくれたと聞いた。父が若い頃、よく聴いていた曲の題名から
採ったらしい。
 安奈は自分の名前が好きだった。そして、その名前をつけてくれた父のことが大好きだった。
 父は食品関係の小さな会社を経営していた。毎晩遅くまで働いて、帰ってくるのは
小さな子供だったらもう寝る時間を過ぎることも珍しくはなかった。
 安奈はしばしば、母に早く寝るように小言を言われながら、父が帰ってくるのを待った。
大抵は待ちきれなくて寝てしまうのだが、たまに父が早く帰ってきた時は、よく父と一緒に
お風呂に入った。夕飯の後に1度お風呂に入っているにも関わらず、である。
お風呂の中で、父と色々な話をした。その日学校であったこと、友達のこと、
好きなテレビや漫画のこと……
ハロープロジェクトのオーディションを受けたいということも、最初に父に相談した。
大好きだった後藤真希の話をし、自分もゴマキのようになりたいと熱っぽく語った。父は安奈の話を
真剣に聞いてくれ、応援すると約束してくれた。

7 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 22:59:45 ID:gv8RK4Kr0
 しかし、父は母に頭が上がらなかった。母はいつでも父の言うことを頭ごなしに否定してかかった。
会社の経営がそれほど順調でないことも、母をいらつかせる原因のようだった。
 安奈は、いつも口やかましく、父のことを悪く言う母のことが苦手だった。しかし、学校から家に
帰ってからの時間の大半を、安奈は母と共に過ごさねばならなかった。安奈にはそれが苦痛だった。
普通に大学を卒業し、普通に就職し、普通に結婚すればいいというのが母の考え方だった。
安奈は、母のいつも自分の意見を押し付けてくる所が嫌いだった。母の言う通りに生きていったと
しても、未来に何の希望も持てなかった。11歳にして、安奈は母の呪縛から逃れたいと思っていた。
ハロープロジェクトのオーディションの話を父が切り出した時も、当然の如く母は猛反対した。
いつもは母の言葉に従順に従う父であったが、この時だけは必死になって母を説得してくれた。
安奈はそんな父の姿を見て胸が熱くなった。自分は父に愛されているということを強く感じた。
 安奈も一緒になって母に頼み込み、ようやく1度だけなら受けてもいいという返事を
もらうことができた。安奈は父と抱き合って喜んだ。まるで自分のことのように喜んでくれる父に、
心から感謝した。
引っ込み思案で友達もそれほど多くなかった安奈にとって、父だけが頼りであり味方だった。


8 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 23:00:33 ID:gv8RK4Kr0
その日から安奈はオーディションの練習に明け暮れた。近所の川原や鉄橋の下で歌の練習をし、
ビデオを何度も見ながらダンスを覚えた。母はそんな安奈の姿を、苦虫を噛み潰したような顔で
見ているだけだったが、父は変わらず応援してくれた。
 父は朝早く出勤し、その代わり今までより早く帰ってくるようになった。
「最初からこうすれば良かったんだよなぁ」
と頭を掻きながら、安奈の練習につきあってくれた。歌の発声練習の本や、後藤真希のビデオを
買ってきたり、しまいには身振り手振りでダンスを教えてくれたりするようになった。
父のダンスレッスンはあまりよく解らなかったが、安奈は父の気持ちが嬉しかった。
 安奈は必死だった。勿論自分の夢を叶える為でもある。だが、父の気持ちを無にしない為、
そして母の言いなりの人生から逃れる為でもあった。
(私は他の参加者とは違う。最初で最後のチャンスなのだ)
その気持ちが、余計に安奈を練習へと駆り立てた。
 もとより街角ですれ違えば誰もが振り返るような美少女であった安奈は、練習の成果も
手伝ってか、順調にオーディションを通過していった。
1次審査、2次審査……合格を知らされるたびに、安奈の不安は少しずつ自信へと変わっていった。
母はまるで無関心を装っていたが、その心中は穏やかではないようだった。
しかし安奈にはそんなことはどうでもいいことだった。父が喜んでくれればそれでよかった。
「やったな、安奈。次も頑張ろうな」
父にそう言われ、頭を撫でられる時が一番嬉しかった。
これまでの努力が報われたような気がした。

9 :ねぇ、名乗って:2008/02/05(火) 23:05:13 ID:enLrXzDWO
支援

10 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 23:55:32 ID:gv8RK4Kr0
 最終審査の16名に残ったという知らせを聞いたのは、梅雨の訪れを待つある日の
方だった。
いつものように川原で歌の練習をし、友達と別れて帰ろうかという時、川原の土手を
走ってくる父の姿が見えた。迷子の子供を捜すかような父の慌てぶりに、安奈は何か
よくないことが起こったのではないかと怖くなったほどだった。
父は安奈の姿を見つけると、転がるように堤防を駆け下り、日頃の運動不足で息も絶え絶えに
なりながら安奈を抱きしめた。
「やったぞ! 受かったぞ! 次は最終審査だ!」
父は3次審査通過の報告を受けると、仕事も放り出して安奈に知らせに来てくれたのだった。
安奈は最終審査に進めたことも確かに嬉しかったが、それ以上に父のはしゃぎぶりがおかしかった。
「お父さん、気が早いよ。まだ合格したわけじゃないんだよ。最後の試験だってあるんだから」
安奈がそう言って父をたしなめても、父の興奮は収まることはなかった。

11 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 23:56:16 ID:gv8RK4Kr0
 父は、事務所の人から、最終審査は歌やダンスなどの実技と、芸能界に対する適性を
プロデューサーのつんくが最終的にチェックする為のもので、特に問題がなければ
全員合格する可能性が高い、その為、今後の対応を家族でしっかり話し合ってきて欲しい
と言われたと、早口でまくしたてた。
安奈は話の内容をすぐには理解できなかった。
暫くきょとんとしていると、父は安奈の両肩を掴んで激しく揺さぶった。
「分かるか、安奈。もう半分合格したようなもんなんだぞ!」
一瞬言葉にならない声が出た後、安奈の瞳から堰を切ったようにように涙がこぼれた。
父は満面の笑みで叫んだ。 「万歳! 万歳!」
安奈も泣きながら叫んだ。 「ばんざい! ばんざい!」
暮れなずむ晩春の西空には、東の藍色の空を精一杯照らすように、橙色の夕焼けが輝いていた。
いつもより鮮やかに色づく空は、梅雨の入りが近いことを言葉少なに語っているようだった。
安奈は思った。今日、この川原で見た夕焼けを、私は一生忘れないだろう、と。
「帰ろう」 父は安奈の頭をぽん、と叩いて笑った。
「母さんを説得しなきゃならないからな」

12 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 23:57:45 ID:gv8RK4Kr0
最終審査進出の16名が揃い、事務所の役員が説明を始めた。
 最終審査は、歌、グループ演技、個人面談の3項目で行われる。
歌審査は、実際の歌収録と同じように、テレビカメラを回してのスタジオ撮影。
グループ演技は、直前に渡す台本を元に、数名で寸劇を演じてもらう。
最後に、プロデューサーのつんくによる個人面談。という流れだった。
それまで和やかなムードだった室内が一気に静まり返った。―――今までとは全然違う。
 安奈は激しく動揺した。心の準備が全くできていない。特にお芝居の練習などしてこなかったし、
安奈にとって神様のような存在のつんくに会えるということもあって、まさに期待と不安が
入り混じった複雑な心境だった。思わず鞄の紐を握りしめる。
何かに縋りたい時、手近にあるものをぎゅっと握るのは安奈の癖だった。
橙色のブラウスの袖が小刻みに揺れていた。不安と緊張で押しつぶされそうな心。
そんな安奈の手を、誰かが優しく包み込んだ。
「大丈夫。安奈ちゃんならきっと大丈夫だよ」
振り返ると、そこには真っ直ぐな瞳で安奈を見つめ、微かに微笑む佐紀の姿があった。
頑なに縮こまった心を解きほぐすような佐紀の手の温もり。
だが、そこにはさっきまでの暖かさはなく、微かに震えてさえいた。
(佐紀ちゃんだって不安なんだ。なのに私の事を心配してくれて……)
どれだけ佐紀に感謝しただろう。しかし、安奈はそんな佐紀に小さく頷くのが精一杯だった。

13 : ◆tjnRmEArys :2008/02/05(火) 23:59:15 ID:gv8RK4Kr0
説明の後、参加者はエントリー番号順に3つのグループに分けられ、その後の審査を
グループ単位で行動することとなった。
第2グループのメンバーは、番号順に、鈴木愛理、清水佐紀、熊井友理奈、松本安奈、夏焼雅
の5名。第1グループの歌審査が終わるまでの間、前室で待機となった。
 最年少の愛理は物怖じしない性格らしく、他のメンバーにしきりに話しかけてきた。
特に、歌だったら誰にも負けないと言い切った愛理の姿は、安奈の心を激しく揺さぶった。
 思えば、安奈はコンプレックスの塊だった。歌もダンスも練習こそ必死にしたが、特に先生に
ついて習った訳でもない。多少は自信があった容姿でさえ、友理奈や雅を目の前にすると、
そのあまりの可愛さに気持ちが萎んでしまうのだった。
(お父さん……)
安奈は心の中で父を頼った。隣の部屋にでもいい、父が近くにいてくれたら……
 その時、安奈は昨晩の事を思い出した。お風呂の中で、父が教えてくれた魔法の呪文。
「け……せら……せら……」
「えっ、なに? 安奈ちゃん、今何か言った?」
無意識に呟いた言葉が、佐紀の耳には届いたらしい。
「えっと、あの、お父さんから教えてもらった呪文……
一生懸命がんばれば、必ずいい結果がついてくるって意味なんだって」
「えぇー、すごーい!」「ねえねえ、あたしにも教えて!」「あたしもー!」
それまで緊張で顔がこわばっていた友理奈や雅も、安奈に呪文を教えて欲しいとせがんだ。
「よぉーし、みんな『けせらせら』でがんばるぞー!」『おー!』
佐紀の音頭で、第2グループ全員が拳を振り上げた。張り詰めた空気に包まれた前室が、一瞬にして
活気に包まれた。
「第2グループのみなさーん、お願いしまーす!」
遂にこの時がやってきた。佐紀のお陰で適度にリラックスした安奈の瞳にもう不安の色は無く、
生気にみなぎった輝きを取り戻していた。
(お父さん、安奈、がんばるからね)
 安奈の人生を賭けた最終審査が始まった。

14 :ねぇ、名乗って:2008/02/09(土) 00:28:28 ID:n7Kanalk0
続き期待してます

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